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自衛隊が『シン・ゴジラ』に攻撃した法的根拠(一部ネタバレ&うろ覚え)

time 2016/11/08

自衛隊が『シン・ゴジラ』に攻撃した法的根拠(一部ネタバレ&うろ覚え)

 食わず嫌いで完全に出遅れましたが、昨日、里帰りのついでに、ようやく観ました。『シン・ゴジラ』

 ゴジラ映画を観たのは、15年ぶり2回目です。『ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃』以来です。

 あの映画で、ゴジラは「太平洋戦争で亡くなった日本人の残留思念の化身」という設定でしたが、シン・ゴジラは、「東京湾に不法投棄された核廃棄物が生みだした超生物」ってことでいいんですかね?

 虚構なんだけど、現実に裏打ちされた虚構なので、非常に入りやすい。

 しかも、ひとつのでっかい虚構以外は、すべて現実世界が前提になっているってのも、非常に私好みな物語でありました。

 徳川家基の幽霊という虚構以外は、すべて現実社会を前提にして書いた “18歳選挙権ラノベ” 『東京ガールズ選挙 こじらせ系女子高生が生徒会長を目指したら』も、よろしくお願いします!(超宣伝)

 
 映画『シン・ゴジラ』は、いろんな方面のマニアを虜にしたはずですが、私はやっぱり、「ゴジラに対してどのような法律を根拠にして動いたか」の描写がたまりませんでした。

 
 


 

 もしかすると、「どうして総理大臣が自衛隊に命令してるんだ?」と不思議に思った方がいらっしゃるかもしれません。

 なぜか学校であんまり習わないために、世間では意外と知られていないのですが、自衛隊の最高指揮官は、統合幕僚長ではありません。

 内閣総理大臣です。

 ナンバー2が防衛大臣といっていいでしょう。

 

 

◆自衛隊法 第7条(内閣総理大臣の指揮監督権)
 内閣総理大臣は、内閣を代表して自衛隊の最高の指揮監督権を有する。

◆ 自衛隊法 第8条(防衛大臣の指揮監督権)
 防衛大臣は、この法律の定めるところに従い、自衛隊の隊務を統括する。ただし、陸上自衛隊、海上自衛隊又は航空自衛隊の部隊及び機関(以下「部隊等」という。)に対する防衛大臣の指揮監督は、次の各号に掲げる隊務の区分に応じ、当該各号に定める者を通じて行うものとする。
  一  統合幕僚監部の所掌事務に係る陸上自衛隊、海上自衛隊又は航空自衛隊の隊務 統合幕僚長
  二  陸上幕僚監部の所掌事務に係る陸上自衛隊の隊務 陸上幕僚長
  三  海上幕僚監部の所掌事務に係る海上自衛隊の隊務 海上幕僚長
  四  航空幕僚監部の所掌事務に係る航空自衛隊の隊務 航空幕僚長

 
 

 

◆ 自衛隊法 第3条(自衛隊の任務)
1 自衛隊は、我が国の平和と独立を守り、国の安全を保つため、我が国を防衛することを主たる任務とし、必要に応じ、公共の秩序の維持に当たるものとする。
2 自衛隊は、前項に規定するもののほか、同項の主たる任務の遂行に支障を生じない限度において、かつ、武力による威嚇又は武力の行使に当たらない範囲において、次に掲げる活動であつて、別に法律で定めるところにより自衛隊が実施することとされるものを行うことを任務とする。
  一  我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態に対応して行う我が国の平和及び安全の確保に資する活動
  二  国際連合を中心とした国際平和のための取組への寄与その他の国際協力の推進を通じて我が国を含む国際社会の平和及び安全の維持に資する活動
3 陸上自衛隊は主として陸において、海上自衛隊は主として海において、航空自衛隊は主として空においてそれぞれ行動することを任務とする。

 

 

 自衛隊員ひとりひとりは、国民を守るために、常に身体を張って鍛錬を行ってらっしゃいます。

 自衛隊法も、その通り定めています。

 ただ、自衛隊という組織は、少数のリーダーによる指揮命令で動いています。

 人や都市などを容赦なく破壊する武器を持ち、かつ、統率の取れた武力は、えげつないほど強力な国家権力だといえます。国を守るために動いてもらえれば頼りになる存在ですが、何かの間違いで、自衛隊だけが単独で暴走したらひとたまりもありません。

 そこで、国民が民主的に選挙で選んだ総理大臣が、自衛隊の最高指揮権を持つことで、自衛隊が国民のために行動することを担保しているのです。

 これを自衛隊に対する文民統制(シビリアン・コントロール)といいます。

 

 とはいえ、総理大臣が自衛隊を指揮する決断にも、法律の縛りがあります。

 日本は法治国家だからです。
 

 

日本国憲法 第73条
 内閣は、他の一般行政事務の外、左の事務を行ふ。
  一  法律を誠実に執行し、国務を総理すること。
  〔※以下略〕

 
 ゴジラの上陸という緊急事態に対して、日本政府の対応は後手後手にまわってしまったのですが、それは、様々な決断を実行に移すために、様々な法律の定める手続きを踏む必要があるからです。

 国民の代表者が話し合って決めたルールである法律を守らない政府は、本当に国民のための政治を行うのか、疑念が生じますし、後になって裁判所が無効判決を出して牽制することもありえますね。

 

 ゴジラとの戦いが、リアルな法体系で裏付けられているだけでなく、様々なしがらみで思い通りに進まないところが、オトナなドラマだな~と、私は『シン・ゴジラ』を安心して観ていられました。

 後になって「ゴジラ特措法」みたいなものが作られたようで、最終的には核兵器以外なんでもありの総攻撃が行われたわけですが(条文読んでみたいけど ・笑)、基本的には「現実の法律をどうやって使いこなすか」(手持ちのカードをどう切るか)という悩みを伴っていたので、見応えがありました。

 

 

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総理大臣の臨時代理

 
 2度目の上陸で、自衛隊の防衛線を破り、都心で大暴れした第4形態ゴジラは、総理大臣ら11人の閣僚の命を奪ってしまいます。

 しかし、すぐに総理大臣の臨時代理として、平泉成さんが就任しました。

 

内閣法 第9条
 内閣総理大臣に事故のあるとき、又は内閣総理大臣が欠けたときは、その予め指定する国務大臣が、臨時に、内閣総理大臣の職務を行う。

内閣法 第10条
 主任の国務大臣に事故のあるとき、又は主任の国務大臣が欠けたときは、内閣総理大臣又はその指定する国務大臣が、臨時に、その主任の国務大臣の職務を行う。

 

 「この国では、総理の代わりがすぐ決まる」みたいな主旨で揶揄されていましたが……
 
 不測の事態における政治の停滞を極限まで回避するため、日本ではあらかじめ、総理大臣の臨時代理が第5順位まで定められています。これに法的根拠はないので、それより減らすのも増やすのも、そのときの内閣の運用で決まっていくのでしょう。

 平泉成さん(前 農林水産大臣)が、どの順位だったのかは不明ですが、国務大臣の集まる東京都がよほど巨大な規模で破壊されない限りは、総理大臣の臨時代理はすぐに決まるものと考えられます。

 

 ちなみに、現実社会での臨時代理の順位は、現在は次の通りです。

  •  内閣総理大臣 安倍晋三
  •  臨時代理第1順位 麻生太郎(副総理・財務大臣など)
  •  臨時代理第2順位 菅義偉(内閣官房長官)
  •  臨時代理第3順位 石原伸晃(経済財政政策担当大臣)
  •  臨時代理第4順位 岸田文雄(外務大臣)
  •  臨時代理第5順位 塩崎恭久(厚生労働大臣)

 

 

自衛隊は、どんな法的根拠でゴジラに攻撃できた?

 

 日本国内で自衛隊が一斉に行動するため、内閣総理大臣が出せる主要な命令は、「防衛出動」「治安出動」「災害派遣」の3つといえます。

 この中で、実際に過去の総理大臣が出したことのある命令は「災害派遣」のみです。

 それだけ、自衛隊発足以来の日本が平和だったということですね。日本政府の手腕が功を奏したのか、たまたまラッキーだったのか、それとも両方なのか。

 

「ゴジラvs自衛隊」の法的根拠は?
  「ゴジラ上陸の脅威」の解釈 自衛隊に許される武力行使の範囲
防衛出動(自衛隊法76条) 「我が国に対する外部からの武力攻撃」…ではないよな 「わが国を防衛するため、必要な武力を行使」
「事態に応じ合理的に必要と判断される限度をこえてはならない」
治安出動(自衛隊法78条など) 「間接侵略その他の緊急事態に際して、一般の警察力をもつては、治安を維持することができないと認められる場合」である

警察官職務執行法7条の準用

・正当防衛(刑法36条)「急迫不正の侵害」に対する「やむを得ずにした行為」の範囲内
・緊急避難(刑法37条)「現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為」の範囲内

災害派遣(自衛隊法83条) 「天災地変その他の災害」である 想定されていない

 

 

 

 

 

 劇中で、ゴジラへの攻撃命令として総理大臣がくだしたのは「防衛出動」でした。いわば、自衛隊の実力をフルに発揮させる最強の命令といえます。

 たとえ防衛出動でも「事態に応じ合理的に必要と判断される限度をこえてはならない」(自衛隊法88条)という制約がありますので、いきなり最終兵器のような爆弾で攻撃することはできません。

 実際に多摩川の作戦でも「第1波」「第2波」「第3波」というふうに、自衛隊は徐々に火力を上げながらゴジラに立ち向かっていっています。そうしなきゃ自衛隊法違反だからです。

 

 しかし、この場面で総理大臣が防衛出動を命じるのは、法的にかなり微妙でした。現に「超法規的」だと言っていましたよね。

 防衛出動を出せるのは「我が国に対する外部からの武力攻撃」があったときだけです。

 武力とは、統率の取れた兵力を意味します。ゴジラがそれに該当するとは思えません。

 

 ゴジラの上陸と都市破壊は、「天災地変その他の災害」に当てはまるのは、ほぼ争いがないところでしょう。総理大臣が自衛隊に災害派遣を命じることは問題なくできるでしょうが、ただ、武力行使を前提としていない命令ですので、実際には的外れです。

 

 個人的な感想として、あの場面で出すべき命令は「治安出動」だったろうと思います。

 治安出動は本来、暴徒化したデモ行進や、内乱的なテロ行為の鎮圧などの場面で適用すべき命令と考えられます。

 

 

◆自衛隊法 第89条(治安出動時の権限)
 警察官職務執行法 の規定は、第78条第1項又は第81条第2項の規定により出動を命ぜられた自衛隊の自衛官の職務の執行について準用する。この場合において、同法第四条第二項 中「公安委員会」とあるのは、「防衛大臣の指定する者」と読み替えるものとする。
2  前項において準用する警察官職務執行法第7条 の規定により自衛官が武器を使用するには、刑法 第36条 又は第37条 に該当する場合を除き、当該部隊指揮官の命令によらなければならない。


警察官職務執行法 第7条(武器の使用)
 警察官は、犯人の逮捕若しくは逃走の防止、自己若しくは他人に対する防護又は公務執行に対する抵抗の抑止のため必要であると認める相当な理由のある場合においては、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度において、武器を使用することができる。
 但し、刑法 第36条 (正当防衛)若しくは同法第37条 (緊急避難)に該当する場合又は左の各号の一に該当する場合を除いては、人に危害を与えてはならない。

 〔※以下略〕

 

 ゴジラは「人」じゃないのは明らかだし、関係ないので警職法7条の後半は思い切って略しました。

 自衛隊法89条2項で、現場で武器を使っていいかどうかの判断は、現場の指揮官の命令によると定められています。武器で反撃することが大前提の防衛出動に比べれば、ずいぶん抑制的な規定だとわかります。

 

 ……こうやって書きながら、今日の記事は本当に面白いのかどうか、若干の不安がよぎってきますが(笑) まぁ、俺が面白いからいいや。今日だけは。

 治安出動の場合、自衛隊は正当防衛か緊急避難の範囲内で武力行使を行うことになります(専守防衛)。相手が攻撃してきてはじめて、相手の攻撃を超えない範囲内で反撃できます。

 

 

刑法 第36条(正当防衛)
1 急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。
 
刑法 第37条(緊急避難)
1 自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しない。ただし、その程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。
 

 

 はたして、ゴジラの上陸と破壊行為が「急迫不正の侵害」といえるのかどうか……?

 確か、司法試験で「動物に対する正当防衛が成立するか」という論点がありました。動物には法律を守る義務がないが、その動物が人間を襲ったとき、その襲撃は「不正」といえるのかどうか。そんな話と同じですよね。

 だとすれば、ここは緊急避難の範囲内での「治安出動」となるのでしょう。

 

 ただ、正当防衛よりも抑えめに反撃しなければならないでしょうから、映画としてあんまり面白くならない(笑)

 超法規的措置なんて、マトモな法治国家で乱発されてはたまらないので、ツッコミを受けるのは不可避ですが、それでも映画の脚本としては「超法規的な防衛出動」ということで正解だったのだろうと思います。

 
 ほかにも、災害対策基本法とか日米安保条約とか、法的なトピックに限っても、いろいろと語り甲斐がある 懐の深い映画だと思います。

 また別の機会に、特に反響が無くても勝手に、シン・ゴジラと法律の関係について書くかもしれません。

 

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長嶺 超輝

長嶺 超輝

「ナガミネ マサキ」 と読みます。たまに、「カンダ マサキ」と間違われます。 [詳細]

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