しつけが行きすぎて、児童虐待になることがあります。
2010年10月7日、横浜地方裁判所。
小学5年生、11歳の息子を木刀で殴ったとして、傷害罪の共犯に問われた父母の裁判。
9時間半にわたって執拗に暴行を加えたほか、食事や水を与えない「ネグレクト」も犯したといいます。
「息子はウソをつくクセがある。このままでは少年犯罪を犯すのではないか心配だった」
そう弁解する父親に対して、自らも子育て中の香川裁判官が、終盤の補充質問の手続きで「お子さんの良いところを3つ言ってください」と尋ねました。
子どもの長所にも目を向けるように諭したのです。
さらに……
もはや、質問になっていませんが
「わたしも反省しながら、この事件と向き合っています。ウソをつくとしたら、そんな子どもの言動の裏には、そうせざるをえない理由があったのではないでしょうか」
「親が2人とも怒ったら、子どもは逃げ場が無いです。父親が叱ったら、母親が叱らないなど、役割分担があるべきではないですか」
「もはや質問になってませんが、『子どもは親の鏡で、子どもを見ればどういう家庭で育ったか分かる』と言われたことがあります。愛情を注ぎ、自信を持って『こんな風に育ちました』と言えますか」
と問いただす場面もみられたといいます。
補充質問で説得や説教をする裁判官は他にもいますし、それ自体は問題ないでしょう。
裁判官と被告人という立場ではあるものの、裁判という「縁」の中で、いったん人生が交差した関係上、とにかく香川裁判官は「言わずにいられなかった」のではないでしょうか。
同年10月18日の判決公判では、懲役1年の実刑を言い渡して、「社会復帰後、子どもと会って同じことを繰り返したら、これ以上の不幸はない。裁判でのやりとりを思い出してください」と説諭しています。
そのほか、香川裁判官のお言葉
「APECの警備をしている警察官を、横浜で多く見かけますが、もし事件がなければあなたも携わっていたでしょう。今後は、社会に役立つことをしていってほしいと思います」
⇒ 職場の上司の机から現金を盗んだとして、窃盗罪に問われた神奈川県警の元警官に、執行猶予付きの有罪判決を言い渡して。2010年11月に横浜で開催されたAPEC(アジア太平洋経済協力)首脳会議や閣僚会議が行われたことを受けてのお言葉。 (2010年11月11日 横浜地裁)
ちなみに、香川礼子裁判官は、2015年には、元タレントの田代まさし氏の裁判を担当したこともあります(判決言い渡しのときには異動になったようですが)。
なお、裁判官による説諭は、法令用語で「訓戒」といいます。
◆刑事訴訟規則 第221条(判決宣告後の訓戒)
裁判長は、判決の宣告をした後、被告人に対し、その将来について適当な訓戒をすることができる。