政情不安や深刻な不況、準備の遅れなど、いろいろと心配されたリオデジャネイロ・オリンピック。
聖火が途中で消えたり、プールがバスクリン色に染まったり、ウソの強盗被害があったり、監視カメラが落ちてきたりと、すったもんだがありましたが、なんだかんだで無事に閉幕しました。
来月はパラリンピックが開催されます。 また新たな感動と興奮が、地球の裏側から地響きを立てて伝わってくることでしょう。
そして、次は東京!
2020年には、どんなスポーツ中継が実現するんでしょうか?
きっと、人工知能を応用した中継機器が大活躍するはずです。
- 選手たちの複雑な動きをひたすら追尾して撮影する「ロボットカメラ」
- マラソンコースを自動的に走って、選手たちを先導する「無人白バイ」
- 体操や柔道などの中継で、技の名前を自動で判別して画面上に表示する「新米アナウンサーサポート」
- メダリストに対するお決まりの質問を人間に代わって実施する「ロボットインタビュアー」
など……?
AI(人工知能)を応用した日本発の技術が、新感覚の映像体験で世界を驚かせるのではないでしょうか。
このページを読んでくれている方の中には、「ライター」を職業にしたいと願っている方も多いかと思います。
ご愁傷さまです。ようこそ、いばらの道へ!
これからの時代は、人工知能(AI)が文章を低コストで大量生産する未知の時代に突入します。
プロ野球のスコアブックをアプリが取り込み、指定された文字数で勘所を掴んだスポーツ記事を瞬時に作ってしまう技術も、すでに実用化されています。そのうち、試合の動画を自動解析して文章にしてしまうAIも出現するんでしょう。
よって、人間のライターは、AIには作れない文章を書かなければなりません。そうでなければ、あなたの口座へ原稿料を振り込む筋合いは誰にもありません。
では、人間にしか書けない文章とは何か。それは「3つの“キョウ”」というキーワードに集約することができます。
このうち、「共」と「驚」は、世の中で面白いと評価されるもの、ほぼ全てに共通して含まれています。
さらに、自分のアイデアを他人へ適確に伝えてシェアさせるための「教」を加えることで、面白さの上に、文章としての「読みごたえ」をプラスさせていく。
では、詳しく検討していきましょう。
読者とのつながりに配慮する 共感の「共」
1つ目は「共感」です。どういう文章を読むと、人は筆者との繋がりや親しみを感じるのか。このあたりは、まだコンピュータで完全に分析しきれない領域です。
- 安心して受け入れられる(常識や倫理に反していない)
- 文章の世界へ、気持ちよく入れる(興味が湧く。参加している感覚)
- 不安が消え、将来に希望が持てる(人々の抱える課題を的確に捉えている)
- あなたに親しみを覚える(説教くさくない。綺麗事や正論、誇示や自己正当化に頼りすぎない。弱点も晒す。生きざまに魅力)
……あなたの文章に、これらの要素が少しでも入っているかどうかが問われます。書き手は読者の立場に成り代わって、自分の文章に「共感」の要素があるか、常に客観的にチェックする必要があるのです。
たとえば「夜中に、片思いの相手に向けて書き綴ったラブレター(メール)を、翌朝読んだら恥ずかしくてたまらない」なんてことが起きるのは、ただ、自分の感情を吐き出しただけの文章だからです。
共感に正解はありません。
たとえ全く同じ文面のラブレターでも、感動する相手もいれば、ドン引きする相手もいます。読む相手の存在を意識する、その意識そのものが大切です。
情報の届け方を真剣に考える 教導の「教」
2つ目は教導、つまり「文章の届け方」です。論理が得意な人工知能は、決まった文法に沿った文章の届け方について、ある程度の水準で実現できています。だからこそ、人間のライターは機械で実現できない「届け方」を目指し、磨き上げていく必要があるでしょう。
- 難しいことを易しく書いている(文章が短い。難解な言葉の意味を前もって説明している)
- 話が一貫している(たとえ寄り道しても、最後の着地はテーマに沿っている)
- 話を裏づける根拠がある(理由・証拠・資料・実例など)
- 最初に、全体像を想像できる説明がなされた後、詳細に入っている(総論と各論)
- 状況をリアルに描写してある(細かい描写で、臨場感や説得力が生まれる)
- 「たとえ話」で、難しさや想像力の壁を乗り越えられるようにしてある
原稿料をもらえるプロの文章か、もらえないアマチュアの文章かの差は、届け方の差です。
エッセイのような書き手の主観(個人的な思い)を伝える文章でも、プロのエッセイには、共感できる「理由」「実例」などがしっかり添えられているものです。
読者の意表を突く、驚異の「驚」
3つ目は、驚きです。書店やネット上に、膨大な量の文章が溢れている中で、あえて、あなたの書いた文章が読者に選ばれるための要素となります。
驚きによって「意外性」「独自性」が加わると、人々の記憶に長く残り、「誰かに伝えたい」という動機付けも呼び起こされやすいです。
- 「誰かに伝えたい」と思える(耳よりな話/新しい組み合わせ/非日常/謎/裏話/強烈な愛らしさや美しさ/奇妙さや滑稽/対決)
- オーバーな要素(極端さや断言)がある
- 抵抗を感じる(違和感をおぼえる。ツッコミを入れたくなる)
- 不安を煽られる。弱みを突かれる
- (前述の)「共」の要素が、あまりにも多くあり、驚くほどの親近感をおぼえる
いまいち採用されない企画は、この「驚」の要素が足りないことが多いです。
また、驚きをつくることは、AIが最も苦手な領域と考えられます。コンピュータは自動的に膨大な量の「新たな組み合わせ」をつくれますが、共感できるレベルでの驚きを含むかどうかは、偶然に左右されます。
以上、3つの「キョウ」を組み合わることを意識できれば、人間にしか書けない「面白い文章」へ近づけます。
険しい道のりですが、道のりの方向性さえ間違えなければ、努力はいつか必ず開花します。
人工知能では、その険しい道へ踏み込むことすらできません。
少なくとも現時点では。